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055ひっそりと再開。
幾つかの記事を非公開にしました。あまりにも見栄えが悪すぎるので…。

デザインも変えました。

 通常のブログ記事を書くかどうかは分かりませんが、いま新しく書いている小説などをアップしていけたらなと思います。

 夏から「夏の夜に語るは夢々」という、二人の女性が会話をするような小説を書いています。

それをアップします。

夏の夜に語るは夢々  作者:misty

(1)

 ねぇ、桃子、なんだって私たちはいつも同じ場所にいるんだろうね。もちろん、すれ違う時だってあった、すれ違うどころか、ぜんぜん会ってもない期間とか。でも、そんなのごく僅かだね。私たちは生まれたときからご近所さんだったし、あ、生まれた病院まで一緒だよね、しょうがない、田舎育ちだもんね、所詮ね、私たちは。そう、生まれたころからご近所さんだし、もう幼稚園では大の仲良しだし、それが、変わることは、なかったんだね――ずぅっと。不思議だなぁ。私が、一番愛した人とか、付き合った人よりも、そんなもの比べ物にならないくらい、一緒にいるんだね。高校を出たらさ、桃子、あなたは普通の大学に行きたいって言ってた時もあったから、まさか私が受けてた専門学校を桃子も受けてたって全然思いもよらなかったよ、高校の進路を考えるときはさ、さすがに私たちも色々考えたよね。無駄話になるけどいい?……私は今でも自分がやりたいこと、なりたいものって何かはよく分かってないけど、私なんか進路ってすごく焦ってたんだよね。うん。勉強ができる桃子が羨ましかった……実は。えへへ。桃子のきりっとした、自立した感じ、それって全然昔から変わってないと思うなぁ、自立とかは言い過ぎかもしれないけど、とにかく桃子は昔から自分の軸みたいなものを持っていた。桃子は強い人だと私は思う。そして私はいつも弱虫。今でも。
 専門学校はさすがに課が違ったけど、私たちはそこでもいつも一緒にいたね。一……影山くんはさすがにいなかった。私たちの世界から消えていた、ね。消えていたというか、自分が飛び立ったというか……。とにかく影山くんなしのはじめての時期で、結局私たちは離れることがなかった。これはけっこうすごいことだと思う、うん、私は。私は影山くんが私たちの世界に現れてから、何となく三人でこの地球は回っていくのかな、なんて、考えたことがあったんだよ。若気の、青春の考え事だけどね。でも私たちは影山くん抜きで世界を進んでいけたんだね……。

 うん、杏子、私はこの際だから言おうと思う、大事なこと。でも、杏子には分かっていると思うの。最初から重たい話を持ってくるなって? うん、うん、でも……。私、ずっと気がついてたよ。影山と一緒にいるべきなのは、杏子、あなたのほうだって。私は、影山にずっと憧れていた。影山の傍にいたかった。でも、釣り合わないのが分かっていた。影山の隣に本当にいるべきなのは、あなたの方だって思ってた。でも若かったから……私は悔しくて、それを分かりたくなくて、それで色々杏子と張りあったりしたんだろうね、同じ人を二人で取りあったりしたんだろうね、懐かしいね。影山はどうしているんだろうね。あいつのことだから、きっと、どんな世界にいても、立派にやっているんだろうね。ほんと何やってるんだろう。外資系のサラリーマンとか? 今頃海外を飛び回っているかもしれないね……あとは研究者になったりだとかさ。頭、良かったもんね。だから、うちらは高校でても地元の専門に通ったけど、影山だけは一人東京に出て行っちゃったもんね……。あいつがさぁ、大学の夏休みのときにこっちに帰ってきて、初めて私たち三人で会ったじゃん、覚えてる杏子? 私は、もうその時の影山が、昔の影山じゃなくなったな、て感じたんだよ。何というか……遠い人のように感じた。しゃべり方とか、私たちの三人の中にいても、なんか違和感があった。私たち二人はそれだけ距離を縮めて、逆にあいつに対する空気を薄めていたように思う。あの時の影山、何だか緊張してた。笑う時、いつも無理して笑ってた気がする。別の空気をまとってきたんだ、この人は、と思った。私と杏子が同じ地元の専門に通っていたとき、この人だけは東京で暮らして、東京の空気に囲まれて生きていたんだな、て。

 そうだね、桃子、私と、影山くんとの間でさえ、なんだか胸苦しくなる瞬間瞬間があったよ。私たちは、昼にいつもの駅で待ち合わせて、それから街をぶらぶらして、カラオケに行って、それからご飯を食べに行った。厚い日だったね。ねぇ、覚えてる桃子、プリクラだってとったんだよ、三人で! おかしいよね。私、本当に高校時代に影山くんと付き合っていたのかな、なんて思ったりする。私と、影山くんの間には、いつも桃子がいたから。私たちは三人で一つだった、そんなときがあったように思う。カラオケでは、懐かしい曲を歌ったりして、みんな盛り上がっている風だったけど、そのうち影山くんが、お酒の飲める所に入らない? て言い出して、それは私たちは別に構わないけど、て言ったら、影山くんは妙に、それまで飲み屋なんて行ったことなかったくせに、張りきっちゃって、結局彼が先頭になって、しばらく店探しをしたよね。あのとき、変だったなぁ。どのお店でもよかったのに、ここは安っぽいチェーン店だ、ここは鶏肉がいいけど桃子は脂っこすぎるモノは駄目だから辞めにしとこう、なんて仕切っちゃってさ。誰も頼んでないのにね。それで入ったお店が、洋風の、ちょっとお洒落な所で、それまで私と桃子はそんな敷居の高いお店に入ったことないから緊張しちゃって、なのにそのお店に連れて行った影山くんが一番挙動不審で! おかしかったな。それで私たち、ほんとどういう料理なのかよく分からずに注文して、出されたものを口にするでもなく食べて、桃子、覚えてる? あのお店のチーズフォンデュだけはとても美味しかった。だから、私たち、今でもあのお店に行くよね。影山くんだけは絶対に覚えてないけど。変な話聞きながら、とろけた熱々のチーズを口に頬張りつづけたの、覚えてるなぁ。

(続)
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