新田はその日の昼間のほとんどを寝て過ごした。そうでもしないと、体が持たなかった。最近は特にそうだ。社会人になってからというもの、新田にとって1週間とはこの土曜日を除いた6日のことに他ならなかった。時間を無為にすることは躊躇われたが、結局それが一番サイクルを回すのに一番いいやり方だと思っている。
夕方も日の暮れに近づいて、ようやく体の中に力が回復してくるのを感じた。今週の仕事がそれほどきつかったわけではないが、疲れは必ず癒しを必要とした。新田は自分の机の上に乱雑に放られた、コンビニで買ったカツとじ丼と麻婆豆腐弁当の空容器をぼうっと眺めた。窓からカーテン越しに射す夕暮れの光が、日中ももう長くないことを知らせる。新田は、繁華街にちょっと出かけよう、と思った。起き上がって、ニュースをチェックし、歯を磨き、ひげを剃った。適当な服を選んで、身につけ、部屋の電気を消して、軽い荷物とともに部屋を後にした。
地下鉄で移動する際も、新田はイヤフォンをつけて音楽を聴くのを好んでいる。宇多田ヒカルのPassion。この曲は、レディオヘッドの「Kid A」以降のエレクトロニカにも十分通じる要素のある、幅広い曲だと改めて思った。選曲をRadioheadの15 stepsに変えた。くたびれた車内の温かい座席にそうして座っていると、携帯の着信音が鳴った。再びまなみからのメールだった。
From まなみ To 自分
(title)Re:無題
明日の夜空いてたら、バーとかどうかな? 日曜日だからお互いそこまでお互い早めに切り上げる感じだけど。私が一杯おごってあげるからさ(笑)
まなみは今何かに困っているのだろうか? 少なくとも新田はそう感じた。例えば貧困に苦しんでいる第三世界の幾人もの人のように? 新田自身は明日の夜だったら空いているし、元カノとはいえ一杯の酒を付き合うくらいだったら全然大丈夫だ。でもまなみの一連の挙動からは、何か怪しいものを感じた。それはもしかしたら新田があまり踏み込むのが適切ではない類の事柄のように感じられた。新田は気持ち悪さを感じつつ、いったん返信をした。
明日の夜はたぶん10時ぐらいなら大丈夫。場所は前のとこだよね?
まなみ、何かあったら遠慮なく電話くれよ。
(つづく)