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- 03/09 [PR]
- 08/31 つづき
- 08/28 ノック(小説、ぜんぜん途中)
- 07/28 散文(「狂人の断想」より抜粋)
- 01/02 Vague mal 14
- 05/30 【連載】Vague mal 5
Title list of 小説
しかし、そのドアを叩く音は止まなかった。たてつづけにドンドン! バンバン! と、まるで債務遅延者の自宅前に駆けこんでどなり散らすチンピラのそれのように、ドアを叩く音は激しくなる一方だった。
「狂人の弾想」と題して、断片的な散文をつらつら書いているのですが、
ふたつほど載せます!
1つは、Nさんへ(笑) 実は、ある夜Nさんの「イメージ」で夢なのか頭の中なのかとにかくよく分からないけど、すごく綺麗なイメージもらって、それからよく考えています。
はい。 ****
那由多に拡がる空――無数の煌めき、ただ短いじかんの中で見ることのできる、感じることのできる、そんな世界があった/ある。夜だよ、夜の闇だよ、ここにはコンビニエンスストアも無いから、星がよく見えるね。天文学者の息子或いはそれに準じる者。ねぇ、なぜ星は在るのだろう、それとこの地球を見た人は青かったなんて言ったらしいけど、それは本当なのだろうか? 青い星……聡明で、透明で、たくさんの命を決して放り投げようとしない、それが地球……なのかな。星。なぜ簡単には宇宙に行けないのだろう、だってたくさんお金を持ってないと、いやそれはやっぱり、星を見れる人は限られるんだよ……なんで? 幻滅とかいろいろしちゃうんじゃないの、実際宇宙に行くとさ。成程、そういうこともあるのかもしれない、地球とあの小さな煌めきは、信じられないほど距離が遠く隔たっていて、でもその存在を確かめる術はある。そう、那由多に拡がる空、幾つもの煌めき。僕たちはいつも空を見上げて、元気をもらう。
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題するなら「那由多」ですね。
もう1つだけ。 *****
変身願望。外、を見つめることであなたは何かを取り込もうとする。夢、蝶の夢、例えばそれは夢の中の蝶のように桜の花の色をした幻想的な色彩の……。えぇ、或いは根元から、根っからの異国人なんですねという言い方が妥当であろう、金髪を敢えてウィッグで装うんです、しかしそれはほぼ精神Cの持ち主によってまた別のものに変奏=変装されていく、実に巧いやり方で。けっきょく変身は厳密な意味では失敗するのだけれども、その失敗が新たな道へ結果としてつづいていく、希望があらわれる。変身願望にとりつかれる女の子たちはいつでも時めいている。美しい、可愛い、いやグロテスク、堕落的、変態的、猟奇的、幻想的。トリツカレタラバ、今度はあなたが取りついてしまうほどに、対象を変えていくのです、あなたが蝶の夢や夢の蝶となって、胡蝶となって、跳となって――。
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感想待ってます(笑) みすてぃ(ういろう)
実はあとちょっとでキリのいいとこまでいくので、それらを公開したあと、連載は終了したいと思います!
ここで「Vague mal」の連載がまとまって読めます。
http://statodiecceziobe.syoyu.net/%E5%B0%8F%E8%AA%AC/
では、第14回目です。
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水辺線上の地平にいる。飛ぶことはできないだろうな。
彼はいつも思い出の中でレモン・ドロップを舐めていたから、何となく甘ったるい独特の印象が残っている。
ここは中心ではない。足元の感覚が正直だ。それでも立っているという確信はある。何かしらを待ち構えているというわけでもない、それでも何か起こるかもしれないという予感の中にいる。足がぬかるみに取られるように、僕は感覚を失っていく。暗闇におちる。死ぬのはイヤだな。あでも死ぬわけではないのか。待つ、そのこと。くらやみとは化け物だな、そんなことをふと思ってしまう。フレンチ・トーストと半熟の目玉焼き。これは世界の裏側か、失敬。
永遠と有限、そのどちらかではなく、二元であるということ。そろそろ自前の刃を準備せよ!
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嘘を書く、という非常に難しいこと。書くことは完全なる遊びにはならず、何かをさらけ出してしまう、自ずと。一種の行為である。
(ところで私は思うがままに探索しているわけなのだが…)
書いてしまうことは何か?契約書とも登記簿とも違うエクリチュール。エクリチュールの起源は?
そう、これは少なくとも嘘でない何かを間接的に語っているのだ。小説は嘘ではない。虚構とは、ある意味で、真実の、真理の内に含まれている。それは真理の見せかけであり、全くの虚偽ではないのだ。
真理の打ち立て方がある。一方は権力によって。もう一方は抵抗によって。権力による真理―体制は今でも十分に世界を覆い尽くす。抵抗による真理の打ち立て方は、ゲリラ戦的な夜戦だ。
都市が、任意的な、それが見える。
(連載最終回へ)
第五回
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例えば、だ、ある一つの物体を多方面から視線のようなものが釘指しているとしよう。それを俯瞰している。物事は多面的である。この視線もたくさんの視線の中の一つでしかないわけだから、この物体の全体像もいわば仮想されたそれでしかない。しかし一部分ははっきりと見える。何かを引き受けるということは、同時に全体性あるいは一般性を捨てるということ。
かざぐるま。水がたくさんの方向から飛び跳ねて、一つのかざぐるまが気持ちよさそうにそれを浴びている。
そうだからあの日紅子が持っていたかざぐるまも、私か若しくは私の記憶のイメージという一つの個別的な視線で引き受けて、全体としての紅子を捨象しているといったことなのか。あの日――ひどく暑い、まだ夏に至っていない午後の炎天下、君はただ何となく着たいといって美しい浴衣を羽織っていた。深緑にピンクや赤の花柄模様が印象的だ。後ろで束ねた白のシュシュもうなじも愛らしかった。
かざぐるまをもらったの、この子、お隣のタイチくんって言うの、ありがとうね、タイチくん、こんにちは、お兄さんお姉さん。今日はあまり風が吹かないね、いやそれより暑い暑い。蝉がうるさかった。とにかく和風女子よろしく紅子は家の縁側で両足をぴったりくっつけて右手でそのかざぐるまをぶらぶらさせて、その姿がとても可愛い。パタパタパタ。紅子は何でも似合ってしまう。
そのうち誰が言いだしたのか、庭からホースを持ってきて水をまいた。あぁ、冷たい。気持ちいいねぇと君は言う。靴脱ごっと、そう言って紅子は靴を脱ぎ、靴下もひっぱたぐとびっくりするくらいの白くて弱々しい下足が露わになる。おそるおそるホースに足を近づけ、あー冷たい!気持ちいい稲これ、ひー。炎天下の昼。
その時、かざぐるまは紅子があやまって水浸しにしてしまったのだった。勢いよくかざぐるまに水があたってあたり一面にしぶきを上げる、私も紅子もタイチくんも被害を被って、私たちは3人で大爆笑した。ごめーん!あ、せっかくのかざぐるまが…。かざぐるまはホースから流れる水に従ってくるくる回り続けた。タイチくんがきゃあきゃあ嬉しそうに、でもこの方が涼しくなったね!と言い、私はそのとおり、と答えた。紅子も最高に笑って、顔にかかった水を手でぬぐいつつ、両足を縁側から外に向かってぶらつかせた。
その時のかざぐるまを今でも私は憶えているのだ。
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