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- 03/10 [PR]
- 02/20 愛の―接合機械(散文)
- 12/11 感情放射線と泡沫の日々(抜粋)
- 10/12 スナップ女
- 10/06 夏の夜に語るは夢々(1)書き換え
- 08/26 474ちょっと不思議な原稿です
Title list of 小説
僕の大切な存在である人との〈愛の共同体〉は、〈愛の―接合機械〉とでも呼びうるかもしれない、そのようにたしょう変化して呼ぶことができるかもしれない。それはとりわけ、ベッドの中にいて、布団にくるまって彼女とぴとっと一体化している時に僕が思うことだ。僕は彼女と身体を合わせている時に、おそろしいほどの安堵を感じる……それは必ずしも性的な行為をやっている時に限らず、ただ抱擁したり、髪の毛をなでたり、ほっぺたを触ったりしている時にそうなのだ。僕らは〈愛の―接合機械〉なのだ、と思う。僕はその片っぽだ! と。〈愛の―接合機械〉なんてことはまだ彼女には一言だって言ってやしないが、彼女もおそらく、僕と身体を親密にさせている時に、安堵を感じているのではないか、と思う……というより、僕らが感じる安堵は、「僕が感じる安堵と彼女が感じる安堵」という風に別々のものではなくて、「僕らが感じる安堵」なのだ、と思う。これは傲慢ではない。その時、お互いの身体を親密にさせているとき、僕らは一つになると思う。それは、その限られた時間の中で、という条件付きでだ。僕らは〈愛の―接合機械〉に変化する。そして〈愛の―接合機械〉は安堵を感じるのだ。安堵を感じ、二つの部分が十全となって、あるべき姿で「在る」、という風に確認し、そしてまた離接する。離接して、また接合する。それが、例え一時的であるにせよ〈愛の―接合機械〉の姿なのだ。
又、こうも言う……。
・シャワー
熱の粒。〈一粒〉〈一粒〉の滴が上方から螺旋状に皮膚を表面を凪いで削いで廻りつたわりつたっていく。〈一粒〉は臍のあたりで集まりはじめてすこしずつ大きくなりまた一つの〈水〉をつくる。水滴は熱を内在的に持つか。液体の温かみ……くしゃくしゃになって汗に絡み絡まれた髪の毛に覆いかぶさって油と水はひとまず混合する……この風呂場という場に於いて。なおもシャワーのゴム管はぐにゃりぐにゃりと弱まった蛇のように巻き/巻かれてシャワーの〈水〉をあたりに撒き散らす。事故―事件。思わぬところ不意をくらって急いで〈温水〉を止める、、、キュッキュッという蛇口をひめる金属が擦れる音。静か、なんだ。外の光が差し込んでくる――真昼間の只中。独りでこの独房に収められているのだここは監視カメラが仕掛けられているんじゃないのかい。努々気をつけなよ。視点の錯綜。ふたたび〈身体〉のなかへ戻り、眼を瞑る……。もう一度じゃぐちをキュッキュッとひねってはとび出だしたるは温水、針のごとくに顔の皮膚に優しく柔らかに流るること如何に。飛ばしていく、意識を、洗い流していく。〈身体〉の流れは、〈温水〉とともに混じりあって床のつめたいタイルの端っこ、排水溝にすべて消えていく……。火照る。熱くなる。夢の感じだからね。ここは風呂。まだ流し足りない。そのうち、光る。皮膚が光ってゆく。我ハ発行体ナリ。シャワーに絡み/絡まれ、ワタシと共に一緒になって、温度の感覚ただそれのみに向かって。
又、こうも言う……。
・鈍行電車
橙に染まった物質の一節にするすると、まるでするすると侵入し、一区画を横領する。外はまた橙色に染まっていた。ひきずったようなひきずられている身体に心地よくまとわりつく緑色の記憶たち……。まどろむわけでもなく、覚醒するでもなく、いつも私はこの場所でぼんやり、ぼんやりとしていた。心地よいのだ。世界はひとまず消失に向かい、別世界がそのうち開けてくる。「トンネルを抜けると静謐であった」。キズ。疵。壁面を細かく眺めていると、あれよあれよとたくさんの落書きが書かれてある。座席にもあちらこちら。I Love You、ユキとツヨシは永遠の絆、タクヤと付き合えますように、マブダチ宣言!、うちらは最高のふぁみりぃ、幸人先輩大好きっ、等々――。ああここには愛が刻まれている。安っぽくて俗でありきたりで健やかで愛おしい、そんな愛の文字たちがガラス窓に映る夕日のきらびやかな反射を受けて輝いているのだ! 愛するものが流れていった。誰かがここに座り、誰かがここに愛を書きこみ、誰かがここを立ち去る。夥しい人の流れがこのシート一つ分にさえある! 日は西へ傾いていく。目的の駅が近づいてくる。人はまばらに動き始めた。愛の流れ。
misty
スナップ女
misty
最初の部分からどうぞ。
夏の夜に語るは夢々
misty
視覚体験1
瞳を閉じると黒色のせかいの真ん中に色とりどりの昆虫たちがあらはれてずいぶん艶めかしい色つやをしてどんどん視覚を構成していく。まるでしんせんなアスパラガスのような体躯をしたキリギリスが次には赤色のテントウムシがノコギリクワガタがハンミョウがムラサキアゲハが。この色つやはまるでレプリカの寿司のようだな。あまりに艶めかしくてその色つやがワタシの目前まで張って圧迫してくるかのようだ。ドクンドクン。とにかく次から次へと視覚は構成される。その前に、テキストとして文字が聴覚にひびきわたるのだ、つぎはテントウムシかつぎはノコギリクワガタかというふうに。テキストが横並びになるワタシは聴診器。テキストを左から右へよみこんでいくだけの。テキストを読みこんだら画像が処理されるわけ、艶めかしい昆虫たちの、これは今気付いたんだが色が爆発しているんじゃないのかい色とりどりの虫たちはさ。虫はよく分からないよ君がテキストを打ったから虫が出てきたんだそれだけのことさ。瞳を閉じる、テキストが流れる、虫があらはれる目前に色つやが迫る。ワタシこういう世界好き。確実にヴぁあちゃる。
説明:視覚に強烈な印象が与えられ、各感官の機能が比較的弱まった状態にあると、ひとつひとつの動作の諸連結がスローモーションになり、まるで一つの感官で処理されていくかのように錯覚をおぼえる。テキストは視覚に残った残像から読み取った素直な印象。そのテキスト情報が聴覚に伝わり、それが新たな視覚イメージを作る。おそろしいほどの立体感は、視覚イメージに空間性と生々しさ(リアルさ)を与えているものと思われるが、その感官は何か?(シックス・センス?) こういった視覚イメージの構成が次々と現れるので、身体は受動的な機械のような感じを受ける。
misty